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学校で勉強をするのはなぜかについて、おもしろい意見がある。
ある映画監督の書いた文章だ。
自分の子どもの頃をつらつら思い出してみると……。
これがすごーく退屈だった。
漫画があった、テレビも始まった。
野球もメンコもしたし、友だちと遊ぶのはまあ、楽しかったんだけど、学校はほんとにつまんなかった。
あの授業時間の長さ、内容のおもしろくないこと!なんでこんなことしなきゃいけないんだろうと思ってた。
今はなんてだか知ってる。
あれは、わざとそうしていたに違いない。
つまんない時間を逃げ出したりしないで、じっとがまんして耐えることこそ、授業の大事な狙いだったのだ。
大人の世界はつまらないからそれに耐えられる能力のある人間を選別していく方法であり、選別された人間は、役所や会社を基盤とした社会に適し、国の経済を支える、まさしくこれから始まる日本の(それは今の日本だけど)求める大人だったわけ。
子どもの時間は、そういう大人になるための訓練期間だったのだ。
どう?何をいってるか、わかる?もちろん、わかります。
ぼくだって同じように思うときがあります。
つまらないことにじっとがまんして、耐えられる人間になるために勉強するのだ。
つまらない社会に耐えられる大人になるためのトレーニングなのだっていうことですよね。
うん、よくわかっているね。
じゃあ、ついでにもう一つ読んでみよう。
これはどうだろう?何いってるかわかるかな?人々自らその身を立て、その産を治めその業を昌にして、以てその生を遂げるゆえんのものは他なし。
身を修め智を開き、才芸を長ずるによるなり。
而て、その身を修天文・医療等に至るまで、凡人の営むところの事、学にあらざるはなし。
人よくその才のあるところに応じ、勉励してこれに従事し、しかしてのち初めて生を治め産を興し、業を昌にするを得べし。
されば、学問は身を立てるの財本ともいうべきものにして、人たるもの誰か学ばずして可ならんや。
智を開き、才芸を長ずるは、学にあらざれば能わず。
これ学校の設けあるゆえんにして、日用常行・言語・書・算を初め、士官・農・商・百工・技芸及び法律・政治。
何ですか、急に。
これは古文じゃないですか。
ぼくには暗号と同じですよ。
明治五年のものだから、古文かどうかは微妙だが、たしかに古いね。
これは、日本にも学校をつくろうということになったときに、明治政府が国民に学校を設立する理由を説いたものだ。
日本に学校をつくった理由、国民が学ばなければならない理由が書いてある。
はじめからあきらめないで、何か書いてあるか考えてみたら……。
……「ゆえん」つて、どういう意味だろう……。
「ゆえん」というのが、「理由」つて意味だよ。
そこがキーワードだよ。
解けるかな?この暗号。
「人々自らその身を立て」は、「自立して」かな。
「その産を治めその業をさかんにして」は、産と業で産業だな、……「仕事を一生懸命して」とかいっているのかなあ。
「自立して、仕事を一生懸命して」か、なかなかいいね。
「以てその生を遂げるゆえんのものは他なし」は、「そうして一生を終えられる理由は他でもない」……。
「身を修め智を開き、才芸を長ずるによるなり」か……。
「自分をコントロールし、いろいろな知識を自分のものにして、才能、技術を伸ばすことによるのである」。
自立して仕事をして生きるには、知識が必要だというような意味だね。
そのためには、勉強することが必要ですよね。
だから、学校をつくることにしたっていっているのですか?うん、そのとおり。
明治政府は、日本を近代化するために、まず国民ひとりひとりを教育することが必要だと考え、勉強をすすめたということだね。
だから、もともと学校は勉強するためにつくられた。
小学校や中学校で「何のために学校へ来てる!」つてしかられていたことの根は、こんなところにあったんですね。
なかなか根が深い……。
監督さんは、つまらない大人社会に耐えられるようになるために学校で勉強するのだといっていましたね。
明治政府は、自立してりっぱな仕事ができる大人になるために学校で学ぶことが必要だと説いたんですよね。
どっちが本当なのでしょさて……、君はどう感じているの?両方の意見とも何か、しっくり来ないように思うんですよ。
肝心なところ?どんなところ?つか、肝心なところをはぐらかされてうまくいい表せるかどうかわからないんですが……。
この二つの意見は、ともに「将来に備えて」ということをいっていると思うんです。
監督さんの文章は、こんなにつまらない社会でいいのかっていいたいのかもしれないけど、学校での勉強は将来のためっていっていることには変わりかおりませんよね。
そうだね。
描いている未来がずいぶん違うけれど、その点では同じかもしれない。
僕らは将来のためにも学んでいるのだとは思いますが、将来のためだけに学んでいるわけじゃないように思うんです。
なるほど、少し君のいいたいことがわかってきた。
学校はたしかに大人がつくったものかもしれないけれど、生徒を大人の思いどおりの大人にするための装置としてもらっては困ると……。
待ってください、ぼくはそんなことまでいってはいません。
将来のためという以外にもぼくらが学校で学ぶ理由はあるのではないかといいたいのです。
あれっ‥なんでこんな話をしているんだろう。
ぼくは国語を何のために学ぶのか聞きたくてここにやって来たはずなのに……。
が何のために学校に来ているのかなんて聞くものだから……。
ああ、悪かったね。
君の聞きたいことには、まだ一つも答えてなかったね。
でも、わたしの方には、いろいろわかったことがあってね、本題に入る前の準備はじゅうぶんにできたよ。
時間を空けておくから、明日もまた来てくれないかな。
順々に君の知りたいことに答えていくことにする。
また、時間を取ってくださるのですか。
ありがとうございます。
君の知りたいことに答えるのには……、いや、答えるというのとは少し違うな。
君の知りたいことを一緒に考えたいと思うが、少し時開かかかると思うよ。
そんなに簡単にはいかないかもしれない。
ぼくの方もそんな気がしてきました。
質問してすぐにもらえるような答えなら、ぼくは今までにどこかでその答えに出会っているはずですからね。
最後に、一ついいですか?さきほどは本題に入る前の準備ができたって、おっしゃいましたよね。
どんな準備が終わったのでしょう?君の「何のために国語を学ぶのでしょう?」という問いかけに対する答えとして、テストのためとか、好成績によって得られるメリットのためというのは、君にはまったく意味をなさないらしいということがわかったということが一つ。
それから、将来、大人になったときに困るから、あるいはためになるからというのも、あまり説得力がないらしいとわかった。
さらに、君か国語という教科を好きになって、どんどん力をつけていく可能性かおることもわかった。
こちらの準備としては、じゅうぶんすぎるくらいだよ。
ぼくは、国語は嫌いで苦手ですよ。
苦手だから嫌いなのかな。
まあ、どちらでもいいんですが、最後におっしゃったのはどういうことでしょう。
今、たまたまここにあった二つの文章を読んでもらったのだが、君は両方の文章がだいたい何をいっているのかとらえただけでなく、それに対する自分の意見もいえたでしょう。
そういうことのできる人は、大丈夫、何のためにということがやがてはわかるようになるし、わかるときっと、国語ができるようになる、そういうこと。
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